『水木しげるのノストラダムス大予言(改題:悪魔くん ノストラダムス大予言)』(以降『ノストラ』とする)を語る際、避けては通れないのが「宮田雪(みやた きよし)」氏の存在です。
過去、当サイト「原作妄想語り」で『ノストラ』を
貸本+特撮実写(マガジン版)=千年王国 千年王国+特撮実写(マガジン版)+他水木作品のエピソード+アニメスタッフの尽力=アニメ版 |
アニメ版(上記参照※カオスな化学変化物の奇跡の名作)+千年王国(もいっぺん松下を足すと山田が出てきた謎変化)+宮田雪=ノストラダムス |
…と定義した事があります。2008年当時の自説ですが、2024年現在も概ねこのイメージに変化はありません。
『悪魔くん』は、所謂原点・松下の物語以降の作品は基本的に、多少の差はあれど御大以外の手による制作である部分が大きく、それが各作品の個性特徴に直結しています。実写特撮版、アニメ版等は大勢のスタッフによって制作されるものなので当然として、松下の最終作『世紀末大戦』でもシナリオ協力に「朝松健」「竹内博」両氏の名前が単行本に明記されており、最近はこれら当時の制作裏話的なものを伝え聞く機会もあります。有り難い事です。
さて、そして「宮田雪」氏です。
身も蓋もなく言うと、『ノストラ』が諸世紀予言オカルトぶっちぎりな内容になった理由の大部分が宮田氏が担ったものだと思っています。
そして宮田氏といえば「宮田雪脚本協力水木しげる作品」として名高い『死神大戦記』の存在を無視しては語れません。
仮に『ノストラ』を「悪魔くんで諸世紀をやろう!」という作品とするなら、『死神大戦記』は「鬼太郎で往生要集をやろう!」という作品である、と定義出来ると考えています。そう、『往生要集』なんですよね…初めて『死神大戦記』を呼んだ時、「往生要集…?えっ、これ往生要集が原案なの…?(どの辺りが…?)」と真顔になったものですが、改めて『ノストラ』と『死神大戦記』を読み比べると、「お、同じ味がする〜!宮田雪の味〜〜!!」となって大変楽しくなります。お勧めです。※あまり話が面白くない箇所は御大が勝手に大改造して描かれたとか、故に全うな水木しげるファンからは大分評判悪い…など噂を聞いた事がありますが、割と納得の内容でもあります。
ちなみに私の初『死神大戦記』は朝日ソノラマ版の赤い単行本上下巻でした。
『鬼太郎対悪魔くん』という鬼太郎と松下が戦う知らない漫画が収録されている…と聞いて手に入れてみたら、表紙に「ゲゲゲの鬼太郎 別巻1.2」とあり、そこで初めて鬼太郎作品のひとつである、という事を知りました。時期はウロ覚えですが『ノストラ』読後だったのは確実です。中を開いて「宮田雪…!(またお前か!!)」となった記憶がはっきりしています。
これが、…読み進めていけばいくほど、…「…鬼太郎版ノストラじゃん…!?」となって。
(※語弊があるのは重々承知していますが、初見感想は本当にそれ以外になかった)
『死神大戦記』初出は1974年(昭和49年)、学研劇画文庫『日本の妖異』シリーズとして描きおろされた単行本作品になります。
※朝日ソノラマ版には『日本の妖界』シリーズと記載されていますが、学研版単行本&大全集では「妖異」なのでこちらが正しいようです。
脚色とは別に「企画=宮田雪・峠あかね」と記載があります。学研版巻末には『日本の妖異』1〜12巻の各タイトル及び作画担当漫画家名が掲載されているのですが、結局全て発行されたのかは不明です。(『大全集』でも解説で情報無しと書かれていたし、自分で調べても『死神大戦記』含む4作品5冊以外の情報が出て来ないので…)
死神大戦記〈上〉 脚色=宮田雪 作画=水木しげる 企画=宮田雪・峠あかね 学研/学研劇画文庫/日本の妖異11/500円(定価) 1974年9月15日発行(初版) B6版/250ページ+α/カラー口絵1ページ ※巻末に『日本の妖異シリーズ』全12巻の発刊予告広告掲載あり。 《日本の古本屋》《Yahooオークション》 |
死神大戦記〈下〉 脚色=宮田雪 作画=水木しげる 企画=宮田雪・峠あかね 学研/学研劇画文庫/日本の妖異12/500円(定価) 1974年12月15日発行(初版) B6版/245ページ+α/カラー口絵1ページ 【往生要集解説】日高聡 【特別寄稿】「霊界テレビに映る世界」小野耕世 《日本の古本屋》《Yahooオークション》 |
ゲゲゲの鬼太郎 別巻1.2 死神大戦記〈上〉〈下〉 脚色協力=宮田雪 作画=水木しげる 株式会社朝日ソノラマ/サンワイドコミックス/各660円(定価) 1985年8月30日発行(初版) B6版/〈上〉342ページ〈下〉336ページ+α ※『死神大戦記』は下巻149ページまで。 『鬼太郎の蓮華王国』『大ボラ鬼太郎』『鬼太郎対悪魔くん』『妖怪ロッキード』『鬼太郎のベトナム戦記』収録。 《Amazon》《日本の古本屋》《Yahooオークション》 |
1974年初出では表紙に居なかった鬼太郎が、1985年再発売されたら明らか合成で上下巻同じ絵で追加されている所が大変良いですね。
タイトルだけだと鬼太郎漫画だと判りにくいから鬼太郎の名前と絵も入れてみました感も『ノストラ』っぽい。そんな所まで似るな。
とはいえ朝日ソノラマ版の装丁、個人的にとても好みです。メインカラーが赤でパキッと色メリハリが効いていて、実際『鬼太郎対悪魔くん』目的ではあったんですが表紙買いだったというのもあります。ただし、内容は若干難点があります。詳細は最後のお勧め解説に書いてあります。
まず、内容比較兼ねて箇条書きマジック的な表を作成してみました。
【表を別ウインドウで開く/Click】
「主役」が12人の子供達と水木先生、そして鬼太郎は途中から登場、地獄行きの前に「大海魔」退治をしてからの合流とかなりテクニカルな展開で進んでいきます。『死神大戦記』の鬼太郎はあくまで子供達を助ける立場であり、水木先生は案内役、物語の主軸は子供達で描かれているので、鬼太郎主役の他作品と比較してどうしても鬼太郎の影が薄い印象はあります。
12人の子供達にはアイヌ設定がありますが、その設定は99.9%生かされておらず、何の策も無いまま地獄に行って、いつの間にか9人死んでいます。怖い。そんなら最初から12人も必要無かったんじゃないのか…丁寧に全員の名前&年齢設定まで出しておいてこんな諸行無常嫌だ。唯一の救いは、太陽が元に戻って世界は平穏を取り戻し、鬼太郎は「幸福の島」に帰り、生き残った子供達と水木先生は無事肉体に還ってエンドという事くらいです。
日本の地獄のおはなしのはずが「日本の地獄が西洋の地獄=悪魔に攻め込まれて乗っ取られてしまった!」というミラクル設定により、ジャパニーズ八大地獄を舞台にサタンと8人の西洋悪魔達が登場します。この人選(悪魔選?)も謎なのですが、例えば最初の等活地獄に出てくる紅一点ブラックエンゼル、1973〜1974年発刊『悪魔全書』『世界妖怪図鑑』佐藤有文氏の書籍ではお馴染み(というより他であまり見た事が無い…)ではあるので、当時的に読者層の間では認知度高めで漫画的に個性強めのビジュアル&名前が強そうな中から選んだ結果なのかもです。
原案『往生要集』からこんな話をよくぞ引き出してきた…という点については宮田雪の恐るべき才だとは思いますが、スナック感覚でオカルトが顔を覗かせてきて気を抜くと展開に置いていかれそうになります。「読者の皆さんならご存知でしょう」みたいなノリと流れでラカンドン一族が出て来て(キャラクターとしては登場しない)ファラオの呪いを解く方法を教えて貰い、最終的に生き残った子供達、水木先生、鬼太郎が「八百万の神々」って事になるんですよ…弥勒菩薩の説明だけで…とはいえ、水木漫画の持ち味の賜物か命懸けの地獄行きなのに全体的にのんびりした空気で、途中エンマ大王にご馳走を振る舞ってもらったりもします。のんびりしてたら怪物にポリポリ食われて1コマで死ぬんですが。
この子供達を食う怪物も、作中で説明は一切無いのですが元ネタがちゃんと存在します。
怪物だけでなく、合間に差し込まれる地獄の様子の多くが絵巻物『地獄草紙』を参考にかなり忠実に描かれており、水木漫画お馴染みのギュスターヴ・ドレ『神曲』の木版画等を参考に描かれた背景と入り交じった結果、作画だけで「西洋悪魔に乗っ取られた日本の地獄」が演出される形になっている、水木漫画でしか見られないアデプトの技です。
個人的オモシロシーンが多すぎて全部挙げるのは大変ですが、
話は長くなるので省略するが 水木は鬼からかぎをとり 「化けがらす」は牢から出された。 |
の一文ですっ飛ばし、4ページで化けがらすがブラックエンゼルをバラバラにして終わってしまうスピード感。
「話は長くなるので省略するが」って。いいんだそれで。ちなみに4ページは長い方です。中には3コマくらいでやられるヤツとかいる。勝手に内輪揉めで消えるヤツもいる…フルフルに至っては名前は出て来たのに最後まで登場する事なく終わります。基本的に地獄での西洋悪魔達との戦いで鬼太郎&子供達+水木先生が死にかける事はなく、ラスボスのサタン戦含めてあまり苦戦している印象がありません。むしろ途中で姿を奪われたり怪物に食われたり洪水で流されたりで9人死んでるの余りに運がなさ過ぎる。そこが「地獄っぽい」と言えばそうかもしれません。
合間に「輪廻の車」「ファラオの呪い」「一つ目ピラミッド」「クロノス(時)」等、オモシロアイテムキーワード目白押しっぷりに勝手に想像を膨らませる事が出来るタイプの人は楽しめると思います。私です。宇宙磁流を背に受けて戦う鬼太郎が既に面白すぎるんよ…宇宙磁流って何…?祈れば海が割れるの…?
個人的には、作中でおばあさんと呼ばれているけどどう見てもヒゲもじゃのおじさんなニタッウナルベと、下半身の隠し方が露出狂然とした仙人・天眼様が好きです。子供達の中では目カクレ彦次くん(10歳)がいいですね。怪物にポリポリ食われましたが…
少なくとも、漫画としての体裁は『ノストラ』の方がそつなく整っていると思います。
要所要所で盛り上がるし…世界は壊れたけど大団円エンドだし…
(脚本を手堅いネームに仕上げる担当の人がいたのかもしれませんが)
しかし畳み掛けるオカルトグルーヴ感では間違いなく軍配が上がる『死神大戦記』、漫画としてはお勧めし辛いですがノストラ副読本としては必読の一作です。
一緒に「宮田雪ィ…!!!(ギリィッ/歯軋)」ってなりましょう。
(「妖怪アンドリエ」って一体なんなんだってばよ宮田雪ィ…………)
こちらも『水木しげる漫画大全集』のお陰で手に取りやすくなりました。 |
私は未所持なのですが1993年に「ぱる出版」から出たバージョンがあります。 |
物理書籍に拘らなければ、2015年に出た角川文庫の電子書籍上下巻が今の所1番入手しやすそうです。 |
後、「ebook japan」で取り扱っている電書『完全復元版 鬼太郎大全集』の『死神大戦記 1』『死神大戦記 2』が、PayPay支払でポイント最大40%バック&割引クーポン利用で半額になることも。流石Yahooのお膝元。1で解説を平林重雄(関東水木会)氏が担当しているのですが、水木先生と宮田雪氏の関係、交流エピソードが書かれていて興味深い内容となってます。現在販売されている中で安価に読みたいならこちらかなりお勧めです。 |